◎少陰 力の弱い妖怪に、己の血を分けて与えて経過を見るが、多くの場合が思った通りに強くはならない。よくわからないものへと変貌し、更に寄越せと襲い掛かる奴らを、自分の領域から蹴り出して、都の陰陽師に掃除させるのが常だった。 人の血を啜ったからとて、力を増すわけではないのに、夜な夜な人を襲う馬鹿な奴らと、訳も分からず命を散らす人間の、なんと滑稽なことか。それを見ると、自分の荒れた心が少しだけ治るのがまたなんとも言えない。 妖怪を斃す人の血を引きながら、人の道を外れて闇に堕ちたのは、きっと自分の性格も関係していた事なのだろう。必然だったのだ。光の中で生きる片割れが居る以上、常闇に身を沈めることが。 暴れる歪な妖怪を調伏せんと、立ち回る片割れを眼下におさめて息を吐く。愛らしい姿をしていた白い獣も変化を解き、体躯の良い青年が火の粉を撒いた。 あれは失敗作だった。早めに片付いてほしいものだ。そう思いながらも手を出さない。己にとって、その失敗作より、片割れが傷を作り苦しむ姿の方が重要だった。 不意に、その妖怪が片割れに噛み付き、青年に弾き飛ばされる。あばら家に突っ込むんだ妖怪の輪郭が、不意に解けた。一瞬の事で、当事者達はそれを視認してはいない様子だ。 「……なるほど」 あれはさほど大きくも強くもない妖怪だった。見誤ったのだ。血の量が少なかったのか、肉が必要だったのか。理由は定かでないけれど、先ほど変容を見せたのは僥倖だ。祓わせるわけにはいかない。 腰を上げ戦場を見下ろす。軽く跳躍し、妖怪と片割れの間に降りた。飛来してきた術を握り潰すように無効化し、自分に少し似た顔立ちの前に立つ。痛みに歪んでいた顔が、驚きに変わった。 「事情が変わった。退いてもらおう」 片割れの横に立つ長身の男が何か吠えるが、あれの言葉に耳を傾ける価値はない。 「待って、話を……!」 「またの機会にしよう、昌浩」 彼らの前へ掌を突き出し、妖気で吹き飛ばして結界を張る。後ろで変異を始めている妖怪へと体を向けて、腕を組む。 さて、これはどういう変化を見せてくれるのか。口端がつり上がるのが自分でもわかった。 ◆ てきとう 10/04 11:40 mae top tugi |