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◎PT2(Heller)


※血の繋がりはないよ!


悲鳴を上げて大勢が歩道を駆けていく。老若男女問わず、形振り構わずに走り、歩道だけでは前に進まないと車道へ飛び出し自動車と接触する者もいた。自動車もまた同じ方向へ進もうとするが、飛び出してくる人々の所為もあってか渋滞しており、殆ど前に進まず、故に車内の人物もまた外へ飛び出し、渋滞は長くなる一方だった。
それを眼下に見ながら、人々が逃げて来る方向へ視線を向ける。なんとも形容のし難い怪物が腕を振り、自動車を潰し、人々を薙ぎ倒し、また逃げ惑う人々を掴んで食い散らかしている。どこから入り込んだのか。一番の安全地帯とされるグリーン・ゾーンでの光景は、目を疑うに相応しかった。だが、これは幻覚ではない。
脚に力を込め、怪物の方へ跳躍する。空気を切って大きく飛び上がり、頂点へと差し掛かった時、身体の向きと姿勢を変え怪物へと飛び込んだ。轟音と共にコンクリートがめり込み、拳の下、落下地点の中心の怪物は体液を撒き散らしながら地面へと身体を沈ませた。しかしよろよろと起き上がり、身体を引き抜くと、此方へその丸太のような腕を振り上げ攻撃を始める。
自分もそれに応戦するため、怪物の身体を切り刻むべく腕の一部を変化させた。

最後の怪物を滞りなく吸収し、肉体が活性化するような、疲労や怪我が癒されていく気分を味わう。
周りを見回しても怪物の姿どころか、動いている人間の姿も見当たらない。ここでの仕事は終わりだ。
さて自分はやる事があるのだと肉体を全て変化させ、黒いボディアーマーを確認したところで、ふと小さな音が耳に届いた。
意識を音に集中させると、それが幼い子供の震えた声であることに気付く。声の聞こえる方へと歩を進め、その声がしっかりと聞こえるようになるが、その姿は見渡す限りでは視認できない。
「お、とうさん、たすけて……!」
声が聞こえるのは確かに目の前からなのだ。そしてその解答を導き出すと、素早い動きで瓦礫を取り除いた。
幼い少女が、今にも泣き出しそうな顔で、こちらを見上げている。ひっ、と少女が小さな悲鳴を上げる。ブラックウォッチ、と口が動いたのに気付き、自分が今、ブラックウォッチの兵士の格好をしている事を思い出す。
「アー、大丈夫だ。何もしない。安心してくれ」
彼女を抱き上げて立たせ、ざっと全身を確認するが、大きな怪我はないようだ。良かった。
「ほんと……?」
その言葉を聞き、あからさまにホッとした表情を見せる。この少女もまた奴らの被害者なのだと思うと、胸の内が熱くなる。だが、今は怒りのままに行動するのは良くないと判断して心を鎮める。目の前には泣く事を我慢している少女がいるのだ。
「じゃ、じゃあ、おとうさん、知りませんか……?」
少し期待の篭った視線を向けられ、どう答えるべきかと頭を撫でる。革の手袋と布のフードでは少しばかり滑りが悪い。
「いや、わからない……すまない」
「ううん、いいの。だいじょうぶ……あ、あの、助けてくれてありがとうございました」
慌てて頭を下げる少女に好感を抱きつつ、頭を撫でる。
「一緒に探してやろうか?」
「だ、だ、だいじょうぶです!えと、おとうさん、あんまり、兵隊さんがすきじゃない、から……きっと、あなたを見たら、怒っちゃう」
ごめんなさい、いいひとなのに、と続けられて自分は頭を振った。ブラックウォッチに、良い思いを抱く人間が少ない事を知っている。自分もそのうちの一人であり、彼女の父親も、そのうちの一人だったに過ぎない。
「そうか。じゃあ俺は行くが、ここら辺はまだ危ないだろうからな。気を付けろ。お父さん、見つかると良いな」
そう言ってもう一度頭を撫でてやると、少女はこちらへ笑顔を見せる。怒りとは別の暖かな気持ちを胸に宿し、彼女と別れて脚に力を込める。道を走るより、ビルの上を飛んだ方が早いと知ったのは最近だ。

飛んで行ってしまった黒い兵士を見上げ、少女はふふ、と笑った。あんなに優しく接させるのも久々なのだ。ブラックウォッチも、嫌な人ばかりではない。
「でもおとうさんの方がもっと高くとべてた!」
誰に自慢するでもなく、かの人に対抗して満足し、少女は血だまりとクレーターの横を歩く。
父親が迎えに来るのはまだもう少し先である。


08/27 06:18


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