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◎暗殺


左手を空に翳す。五本の指の先には、綺麗に整えられた爪が鎮座している。掌もまだ柔らかく、尊敬する父の手には程遠い。支給された白い服も、ただ砂埃に塗れているだけで綺麗なものだ。周りの人々は、期待に満ちた目と、嫉妬に満ちた目を自分に向ける。焦るなと言ってくれる人物もいるが、希少なのは言うまでもなかった。
自分はあの若きマスターアサシンに師事して学ぶ者。そして彼の息子として、迎え入れられた者だ。
翳していた手を降ろし、儀式の場に目を向けた。今は誰も立っていない。あそこから飛び降りて初めて、正式な教団の一員となる。ここで産まれた子ならいざ知らず、自分はただ気紛れに拾われた子どもだ。教団の血を引かず、儀式の経験もない。言葉による弾圧が烈しくなるのも頷けた。
名を呼ばれた。振り向けば見慣れた白い服。
「来い、休憩は終わりだ」
固く、厳しい、聞きなれた声。みなは彼のこういった雰囲気と声に萎縮する。けれど、彼はそれだけの男ではない。
この爪も、服も。生きる術の全てを、彼が手配してくれた人によって整えられている。自分はまだ、教団の一員ではない。それをしっかりと理解していて、だからこそ、そういう手間をかけてくれているのだ。
「はい、父さん」
彼は我が師。そして我が父。
かの人のために、自分はいる。


08/12 03:10


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