◎血界戦線 ヘルサレムズ・ロット。人外魔境入り乱れる元ニューヨーク・シティ。 治安は最悪、けれどある種の生物には住み良い異界。 そんな犯罪の温床とも言える霧に囲まれた街にも、正義を主張し、執行する組織もある。例えば今、よくわからない怪異に、血液を己が武器として戦い立ち向かう面々が所属する、秘密結社ライブラ。血界の眷属、所謂吸血鬼狩りを本職とする彼らも、普段は広義的な自警団じみたことを行っている。 そして自分はというと、その組織の戦いに、うっかり巻き込まれてしまっていた。 「だ、だ、大丈夫っすか!」 心配そうにこちらの様子を伺うのは糸目の青年。だいじょうぶ、と声を出そうとするものの、置かれた状況は言葉に反して、誰が見ても一大事だ。 「今、助けるから」 こっちは大丈夫だから、君は逃げて。そう彼に伝えたいのに、口から漏れるのは掠れた息と、血液だけだ。 崩れた建物の瓦礫の下、身動きの取れない幼い体。重いコンクリートが身体を押し潰し、激痛に苛まれるはずのその身体は、痛みではなくただ寒さを感じている。 それが流血に依るものだと理解するのに時間を要し、また、うすらぼんやりとする頭で、こちらに伸びてくる手を眺める。てを、と耳を通過していく声。霞み、黒く染まっていく視界。だめだ、と誰かの声がする。だめだ。だめ。ああ、だめ、って、なんだっけなあ。 心地よい暖かさに包まれていた。もぞもぞと動けば、柔らかい感触が肌に触れて気持ちが良い。耳が拾う周囲の雑音、薄っすらと瞼を上げれば、最期に見たはずの青年の顔。 「目え覚めた!? 良かったぁ〜!」 ぱちりと瞬きをした。本当は目を覆ったり頬を抓ったりしたかったけれど、腕が持ち上がらないのだから仕方がない。ぐっと眉間にしわが寄るのがわかる。自分は瓦礫の下敷きになり、潰されて死んだはずだったのだ。どうして、と彼に問おうとする。声が出なかった。喉の渇きのせいだろう。喉を通った空気は、音にならずに口から漏れていく。 あり得ない。叫びたかった。自分は死んだはずだ。死んでいなけれはならなかったはずだ。別に死にたかったわけじゃない。けれど、その「あり得ない」が、自分の身に起きて欲しくなかったのだ。 ヘルサレムズ・ロット。何でも起こるとされる異界。 それに組み込まれてしまった事実が突き刺さる。 これでは、もう人ではないじゃないか。 ◆ うーむ。むずかしい 05/07 07:30 mae top tugi |