ある幼き日 | ナノ
「なあケロロ」
「んー?」
「おとなになったら、おまえ、なにになりたいんだ?」
「はあ? なんだよ、いきなり」
「いや、べつに…ちょっと、気になってな」
「あ、ぼくも、気になるなあ」
「えー…なにそれ、言うのっておれだけなわけ?」
「え?」
「おまえらが言うんだったら、おれも言ってやってもいいけどー?」
「…」
「…」
「だって、不公平じゃん?」
「うーん、それも、そうだよね…」
「…わかったよ! 言えばいいんだろ!」
「はい、じゃあゼロロからー!」
「ええっ! なんでぼくからなのー?」
「どうでもいいだろー、順番なんか!」
「おもいっきり指定してるけどな」
「ギロロうるさい! ゼロロ声かぼそいんだから聞こえないだろ!」
「…かぼそい、かなあ…」
「ああ、もう、いいからいいから! なにになりたいんだよ」
「うん、あの、あのね、ぼくは…お医者さんに、なりたいんだ」
「へー、医者かあ…」
「ちなみに、なんで医者なんだ?」
「…ぼく、みんなに助けられてばかりだから、せめておとなになってからは、ひとの役に立ちたいなって」
「いいじゃんいいじゃん! いい夢なんじゃね?」
「そ、そうかな…? あ、ギロロくんは、なにになりたいの?」
「お、おれか? おれは、その…車掌に…」
「えっ!」
「車掌ーっ?」
「な、なんだよ!」
「いや、だっておまえ、前に軍人って言ってたじゃん!」
「あれは父ちゃんも兄ちゃんもいたからだよ! それに、車掌に『なる』って言ってるんじゃあない」
「え、でも、なりたいんじゃあないの?」
「『なりたい』だけだよ。実際になれるわけがない」
「…おまえんちの父ちゃんと兄ちゃんのせいで?」
「それもあるけど、おれ自身が軍人じゃあないといけない気がするんだ」
「…むずかしいね」
「うん…でも、おれはそうじゃあないと生きていけないと思うから」
「…ギロロって顔のわりにいろんなこと考えてるんだな」
「顔のわりにってなんだよ! ていうか、もうおれもゼロロも言ったぞ! 約束だぞ、おまえも言えよ」
「隊長」
「…え?」
「いや、やっぱり提督!」
「ええーっ?」
「ちょっとおまえ、なに考えてるんだよ! 提督になんか、なれるわけないだろ!」
「だって、『なる』わけじゃあないんだろ? だったらさあ、夢は大きくしなきゃあな!」
「…大きくって…」
「…」
「提督になったら、宇宙の星を片っ端から全部侵略するんだぜ! そしたら、戦う相手もいなくなって、みんな仲良く暮らせるだろ?」
「…!」
「そうなったら戦争もない、死ぬやつもいない、爆弾も武器も兵士も軍もいらない」
「…」
「幼訓練所なんてないし、おれたちも遊べる。食って遊んで寝て、それだけしてたらいい世界になるんだ」
「…そんなに、簡単じゃあないだろ」
「そんなの、やってみないとわかんないじゃん!」
「…」
「…でも、なったらいいよね。そんな世界に」
「…そうだな」
ある幼き日
(結局、今でも叶えられていないけれど)
(願い続けては、いるんでありますよ?)
2009.04.22