金烏玉兎 | ナノ


※転生現パロ(26歳×39歳)
※ローコラ版マンスリーお題様の6月度のお題「悪ガキ」をお借りして一本



 朝のコラさんは、きらきらしてて、すきだ。うつらうつらと眠りの海から上がり、おはようのくちづけを交わした彼が、半身を起こしたこの背へとそんな台詞を投げかけてくる。聞き覚えのありすぎるそのフレーズに、見返れば、薄く髭の浮かんだ自らの口許を、とんとん、と指しては頬を上げる、立派に成長した彼がいた。
(『コラさん、きらきらしてて、きれいだ』)
 もう十余年も前のことだ。前世の記憶を抱いたままこの身の前に現れたおさなかりし彼が、本人のたっての希望で時折、泊まりこんではおれのそばでねむっていたあのころ。まばゆい朝日にねむたげな目を擦って、ぱ、と健康的な肌の顔を上げたそばから、そんなことを口走るものだから、おれはすっかり面食らってしまったのだったか。同じ年頃のこどもよりはちいさめな体格ではあるものの、熱を帯びた少年の視線が、この顎のあたりに向けられていることに、やっとその趣旨を理解する。
(『きらきらって、ロー。おまえ、こりゃあ髭だぞ』)
 かわいいなあ、もう。でれでれと、だらしなく崩れるままの頬を、抱きこんだ少年の頬におりゃあ、捕まえたぞと擦りつけてやる。いつかの彼であれば、やめろこのばか、と怒り狂っては突き飛ばそうとしてきただろうに、ああ、いま思えば、いてえよコラさん、とただ文句にもならない文句を垂れては、あとはくすくすとうれしそうにわらうだけであったのは、ひょっとすると。
「──もしかして、あのときも、おんなじ気持ちで……」
「あたりまえだ」
 中身はずっと、一度いのちを使い果たしたおれだぞ。にやにやと、一般的には悪人面と評されがちなわらいかたで、ひといきに距離を詰めるように起き上がった彼は、いかにもいとおしげに、この頬を指先で撫ぜてくる。じわりといまさら熱くなる顔に、このませがきめ、とののしってやりたくとも、いまや共に道を歩む約束をした仲であるのだ。きっとむっとした顔のまま言葉に窮していると、陽光に照らされた金の双眸が、やわく細められる。
「……生きてる証拠だ」
 ちいさく、ほんとうにちいさくこぼされたそのことばは、どこまでも安堵に満ちていた。じくりと痛む胸を、彼は、それすらも抱こうとするように、この首をぐいと引いてくるのだ。倒れれば寝台が揺れる。重なる彼の身体から沁みる体温が、肩口に乗ったこの頭を掻き抱き、額に、目許に、こめかみにくれるくちづけと髭の感触が、まるでおそろいの安堵をわけあたえようとしているようで、頬がゆるんでいく。
「……いい子だよ、おまえは」
「くそがきって言ってたろ」
「なんだ、おぼえてんのか」
 じゃあ、わるい子だ。こころにもないたわごとを笑みに混ぜて、やさしいひとの広くなった背を抱く。この身ほどとはいかずとも、病もなく一人前の図体を得たこのおとこは、ああ、と、そうだ、と、低くわらっては、おれは泣く子も黙るわるがきだ、などと、矛盾した台詞を吐くのだ。
「だから、捕まえといてくれ」
 得意だろ。ぎゅう、と、いかにもだいじそうに抱きしめてくれる彼に、もはやどっちが捕まっているのか、という無粋は飲みこんでおく。返事がわりにその後ろ頭をたいせつに押し撫でて、ぬくいシーツと満たされた彼にそそのかされるまま、おれは二度寝という悪事に興じることにした。

金烏玉兎

2024.06.23

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