おすそわけ | ナノ


※転生現パロ(26歳×39歳)



 お、やっぱり起きてるな。ノックもなしに部屋の扉が開いたかと思うと、ひょこりと顔を覗かせる起きたての彼が、そう言ってはにんまりとわらう。おはよ、とふたつ手にしたあつあつの珈琲をひとつ、置いてくれるのに、おれはさりげなく近場にあった資料を机の反対側に移した。
「おはよう。……よくわかったな」
 もう少しでまとまりそうな医療論文を仕上げてしまおうと、いつもより少々早起きをしたのはたしかだが、寒さの落ち込んだ部屋の外では顔を洗ったきり、なにか痕跡の残るようなことをした覚えはない。だろ、と喜色を浮かべつつ、珈琲をすすろうとする彼に、ティッシュを五、六枚、引き抜いては手の中に確保しておく。
 いやさあ。そのやわらかなあかいひとみが、寝起きのものとはちがう、ほどけかたをしている。
「洗面所の水道から、すぐ、お湯が出たからよ」
 あ、起きてんだなあ、って。壁に広い背を預け、でかい両手で包んだ彼専用のマグカップの湖面を見つめて、そう、いかにもうれしそうに、頬をほころばせる。彼と寝食をともにしはじめておよそ一ヶ月。そんなささやかすぎる幸福を、こうして、時折、だいじそうに告げてわけあたえてくれる、そういうところが。
「いいなあ、こういうの」
 くしゃりと、照れくさそうにわらってはこちらを見る、あまくとろめいたまなざし。彼のまわりにいつだって吹き荒れている、そのあいらしさの暴風雨に、毎度のごとく見事に射止められたおれは、直後、勢いよく熱い珈琲を含んだ彼の口の爆発を、ろくに止めることもできなかった。

おすそわけ

2024.03.10

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