漕げよボートを | ナノ


※転生現パロ



 コラさん。暗幕も閉め切った暗闇の中、耳に心地よい彼の声が、ひっそりとしたたり落ちる。どうした、そうねむりの帷を引き下ろしながら問えば、しなやかな腕でこのでかい身を、意地とともに抱きしめている彼は、すこしばかりゆらめいた声音でつぶやくのだ。
「おれが起きるまで、そばにいてよ」
 そのくちぶりが、いつかどこかの彼に似た、おさなげなものになっていると、彼はわかっているのだろうか。ぎゅ、と背の布地を掴まれる、その切実さに、いったいなにをそのまぶたの裏によみがえらせているのかなど、想像に難くない。
 ロー。そばに在る彼の額へと、この額をこつりと合わせる。くらがりに溶ける彼の短い黒髪を、やわく、くりかえしくりかえし、手のひらで押し撫でる。
「いるとも、ロー」
 だからまずは、ゆっくりおやすみ。かわいそうに、浅い眠りがすっかり染みついてしまったその背を、そっと、片腕で包みこむ。しかし毛布の下、思ったよりも身体の芯まであたたまっているような彼は、は、と、おかしそうに薄く吐息を漏らすのだ。
「……もう、ねむれる」
 コラさんがいて、しずかだから。かすめる鼻先、ちゅ、と、ふれるだけのくちづけ。おやすみ、そう言い逃げて、すう、と、ゆめの波間へと駆けていく彼は、ああ、きっと、なによりも幸福そうに、そのかんばせをほどいてくれているのだろう。そのさまがうつつの薄闇に隠されていることを惜しみつつ、おれは熱くにじむ瞼の境界もそのままに、夢路の砂浜に残る足跡を追うことにした。

漕げよボートを

2024.02.10

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -