祈り | ナノ


※転生現パロ


 色とりどりの花に、うずもれていた記憶がある。いったいそれがいつの、どこであったことかも覚えていないが、その花々はとにかくあたたかくて、このでかい図体さえ覆い隠してしまうほどわんさと咲き誇っていた。くるまれるようなぬくもりがとてもしあわせで、はらはらと降りそそぐ花々の向こうの青空は、とほうもなくうつくしかったような気がする。
「おまえからの、贈り物だったのかもしれねえなあ」
 ありがとうな。風に揺れる花畑を前に、ふと頭の隅にしまっておいた記憶を引っ張り出したのは、いけないことだっただろうか。あわよくばいつか自分を思い出してくれたら、などというささやかな願いが、なにも知らぬおさない彼には、どうしたことかほとんどしがらみとなってしまったであろうことさえわかっていて、するようなはなしではなかったかもしれない。
 精悍な青年となった彼は、黙しておれのたわごとを聞いていた。お気に入りの帽子の鍔で隠れがちな目許が、今日もあまり見えはしない。
 長いながい静寂に、吐く煙すら邪魔立てするようで、吸いかけを殻にする。ざざあ、と幾度目かの花の波が打ち寄せて、彼は閉ざしていた口を開いた。
「ぜったいに、わすれたくなんか、なかったからな」
 あんたに、伝わっていたのなら、よかった。ぽつ、ぽつりと、こぼれおちていくことばが、ああ、どうしてすぐに出てこなかったのかなど、その声音を聞けばわからぬはずもない。ずっとずっとかえらぬ愛をくれていたその手で、わななくように、きつくきつくこの手を握りしめてくれる彼の、あの花とおなじぬくもりに、おれはつられるように目の奥を熱くしては、その手をだいじに握りかえした。

祈り

2024.01.28

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