逢瀬 | ナノ
ほうら、ロー。プレゼントだ。おれたちはかみさまなんざ信じちゃあいないが、こんなとくべつな日くらいは、ちょっとくらい、乗っかっちまったってばちはあたらねえだろ。いたずらにほほえむ、頬の端まで大きく引かれた紅に隠されたふくよかなくちびるが、そっと、この額に押し当てられる。いつまでたってもおおきなその両の手のひらがこの両頬を包んで、ぬくいその体温が、この皮膚のこごえをじんわりと溶かしていくのが心地良い。
「プレゼントって――」
――この夢はいつも、おれが口を開きかけたここで終わる。毎年毎年、同じ日に、律儀にも夢枕に立ってくれるそのことこそが、きっとほかでもない贈り物であるのだろう。底なしにやさしいあのひとは、ほんとうは、なにかを用意してくれていたのかもしれないけれど。
「キャプテン?」
いやなゆめでもみたの。遠く鳴る潮騒の中、こころをゆるした友のふかふかとした白い顔が、目覚めたこの視界に入り込む。ああ。いや。逆だな。要領を得ない答えは、友のつぶらなひとみをしばたかせるには充分だったろう。思わず緩んだ目尻が濡れだす感触に、おれは部屋を後にしては夢の残滓を拭った。
逢瀬
2023.12.27