わすれじのしずけさ | ナノ



 ああ、あいしているぜ、いつまでもいつまでも、かならず。瞼を閉じればいつだってあのひとのやさしい声音が聴こえた。ひしとだきしめられた、あの煙の吸いきった黒いコートの、かすかに汗ばんだにおいも、不格好に下瞼を反らし、口角を上げた下手なつくりわらいも、たしかに思い出せるというのに、それがほんとうにこまやかに正確であるのかと言われれば、ああ、向こう見ずにうなずけるような、こどもであったおれはどこにもいないのだ。
(おれは死んだんだ、あのとき、あんたと一緒に)
 そうして、あんたの手で、よみがえったんだ。白斑の消えた手のひらを見つめる。不意の静寂にあのひとの面影を探すこの癖を、せめて彼方でわらってながめていてくれと、おれはとうに捨てたはずの祈りを繰り返さずにはいられなかった。

わすれじのしずけさ

2023.12.11

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