そして夜闇に舞う | ナノ







 そよりと頬を撫でていた夜風に、シガーのくゆるにおいが混ざったのはいつからであったか。きいと開け放していた窓が立てる音にも振り返らずにいると、自分のほかにはだれもいないはずのこの部屋に、しっとりとした声が響くのだ。
「……ずいぶん警備が緩いじゃあないか。ええ?」
「そりゃあ、空から訪れる輩なんて、きみくらいだからな」
 揶揄めいた事実を告げて椅子から立ち上がれば、ゆったりとした寝衣の足元から砂漠の冷気が入り込む。ついとかえりみたそこでは、窓辺に膝を立てて腰掛けた長い銀髪の男が、紫煙を吐き出したところであった。
「あいつは?」
「マッシュなら、まだ下でロックたちと飲んでるんじゃあないか」
 風にあおられる髪をかきあげて葉巻を吸う彼にわらって言えば、あいつらも来てるのかとさして興味もなさそうにつぶやく。顔でも見せて行けよ、そう言えども彼はなんでと返してくるのだ。
「そんなことでわざわざ来てやったんじゃあねえよ」
 わかってんだろうが。歯噛みすると同時に投げ渡されるそれを受け取る。見ればその包みは弟宛てであるようで、つけられたカードに弟の名が走り書きされているのだ。意外性に目をしばたくとなにを勘違いしたのか、おまえのはねえぞと牽制される。しかしわざわざそう言われてしまえば腑に落ちないもので、どうしてと問えばにや、とその口角が上がるのだ。
「おまえには、おれの貴重な時間をくれてやるからだよ」
 ほら。差し出される傷だらけの手に、思い切りしかめ面をしてやる。きみがそんな気障なことを男に言うとは思わなかった。言いながら手を取れば、おれも夢にも思わなかったよ。くつくつと喉を鳴らした彼はおれの腕を強く引いた。

そして夜闇に舞う


フィガロ誕でした。


2012.08.16



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