融解する瑠璃 | ナノ







 深いあおが、とけてにじむ。そうして淵からこぼれおちた、そこから肌のいろにまぎれて水分は消えていくのだ。床に金色を散らして倒れ込んだまま、その双眸はどこを見ているのかもわからない。ただただうつろに壁の蝋燭の灯りを反射する角膜に嫌気がさして、おいと肩を揺すぶれば彼はふとこちらに視線を移した。どうした、いったい。頬に触れてやりながら問えば、なにがだと緩慢に首をかしげられる。
(気づいていないのか、こいつは)
 信じられない思いで濡れたまなじりを拭ってやると、ああ、と合点がいったように彼は苦笑した。また、やっていたか。どうやらよくあることであるらしい、そこには動揺の一滴もありはしないのだ。その胸元に落ちたおれの髪をすくっては落とし、またすくっては指に絡める彼は、おもむろにそれをくちびるに触れさせる。
「こうして横たわっていると、ときどきな」
 しんと、ひえこむことがあるんだ。ぽつり、虚空に浮いた声は余韻もなくぷつりと切れる。続いてふるえるように息を吸い込むその唇を指先でなぞった刹那、再びそのあおがとけだすのだ。思い出してしまった、そうわらおうとしたらしい声はひどくちいさかった。ああきっと、その喉の奥はきつくきつく締めつけられているにちがいない。ひたすらに流れる水脈をとめようと長い睫毛の淵にくちづけかけて、しかし、たゆたうあおにぐらり、くぎづけになる。
(とめて、なんになる)
 いいやけして、とめてはいけないのだ。こらえさせてはいけないのだ。やわらかな頬にこどもじみた接吻を落とし、あまやかして、やろうか。そう囁けば、その顔がようやく、ぐしゃりとゆがむ。
「……そんなの、ぜったいに、ごめんだ」
 首を振り顔を隠す彼に、だからおまえは、ばかなんだ。そう言って、くしゃくしゃと髪を撫でてやった。

融解する瑠璃


2012.01.31



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