空振る思惑 | ナノ







「何本吸えば、気が済むんだ」
 ぱたんと本を閉じる音と共に、すこし辟易した声が耳に届いた。それにぷかりと煙をひとつ、吐き出した先にいた彼はしかめつらをしてわざとらしく咳き込むのだ。煙草の一本や二本、吸えるようになれよ。灰に変わりゆく先から揺らぐ煙をくゆらせながら揶揄をからめた台詞を吐けば、緩やかに波打つ金髪の先をいじっていた指先が、ひょいとおれの指から煙の元を奪う。
「あいにく、国王様は長生きをしなきゃあいけないからね」
 そううそぶきつつも煙草をくわえてみせる彼には、いったいどういう魂胆があるのか。単純なようで底の見えない、大胆なようで繊細な、とかく掴みどころのないこの男にはいつもひやりとする。しかしそれでいて、この皮膚の下を巡る賭博師の血はそれをおもしろいと騒ぐのだ。この男が言葉を発するたび、ふいと動きをみせるたびに、次はなにがくるのかと胸底が躍る。今回はどうだろう。目の前で一度深く煙を吸った彼は、今度こそ大きくむせこんだ。
「なにやってんだ」
 いきなりそんなに吸い込む奴があるか。さすがにあきれて丸まった背をさすってやると、はははとまいったようにわらう。そうして煌めくそのふたつのあおいコランダムは、ふとこちらを見上げてくるのだ。さて、どうくるか。ゆっくりと開くくちびるに、おれは目を逸らさないまま思考を巡らせた。
「……これが、きみの味なのかい」
 予想の範疇を超えていたずいぶんと直接的な台詞に、なんならためしてみるか。そんな陳腐な誘いが舌を滑り落ちた。紫煙を上げ短くなった煙草を灰皿に押しつけた彼は、しかしそれに乗ることもなく遠慮しておくと苦笑するのだ。あまりのつまらなさにため息をついたおれは、おとなしく新しい煙草に火をつけた。

空振る思惑
(だって、くせになりそうじゃあないか)

2012.01.16



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