さて、どうしたものか | ナノ







 くちゃくちゃ、くちゃくちゃとガムを噛む音が部屋に響く。最初のうちこそ、ああ食べているなという程度に感じなかったそれが、次第に耳につくようになったのは十分くらい前のことだろうか。仲間が談笑している飛空挺の居間(と表現すれば口を動かしている彼は渋い顔をするのだろうが)はけして静かではないというのに、その音がいやに神経を逆撫でするのだ。
「なあ」
 我慢できず手にしていた本を閉じ、隣の彼に声をかけても、んー、と気のない声を出したきり、その目が手元の本から離れる気配はないのだ。しかもその口はいまだ粘着質な音を鳴らしている。悪気がないことはわかっているのだが、とわざとらしくため息をついてやわらかい長椅子に背を預け、それでも字に魅入られている彼におれは勢いよく向き直った。
「な、なんだよ」
 さすがに驚いたのかようやく顔を上げた彼に、口を閉じろ、そう言おうとして逡巡した。彼とて故意にこうしているわけではないのだ、あんまりきつい言い方はよくないだろう。居住まいを正しながらもどうしようかと悠長に思案し始めていると、エドガー、と眉をひそめる彼の、その口元に目がとまった。
(閉じさせれば、いいんだ)
 出た結論に従って指を伸ばし、むに、とその乾いた唇をまとめてつまんでやったとたん、彼は両の眼を見開いて硬直した。ああ、これだけではわからないな。動かない彼にそう気づき、ものはこのまま噛むものだと言おうとして、おいとだれかに声をかけられる。
「なに……してんの」
「あら、ロック、しらないの?」
 なぜか引きつった顔でこちらを見るバンダナの悪友に、やわらかな緑の髪をした少女は、いたって無邪気にこう言うのだ。
「ぴよぴよぐちの刑よ」
 そうでしょう、エドガー。そのあいらしい言葉は、おれに己が滑稽さをいやというほど知らしめてくれた。

さて、どうしたものか
(いつになったら離すんだ……)


2011.11.24



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