同族 | ナノ







(つくづく、酔狂な男だ)
 肌をさらした下腹部に唇を寄せる彼の髪をすきつつ、聞き咎められないようこっそりと息をつく。しかし閉じた脚のそこに溜めた酒をすすっていた彼は、耳聡く顔を上げ目を細めると、おもむろに普段は博打道具をもてあそぶその指で、きゅうくつに折り畳んだおれの脚をなぞるのだ。くすぐったさに払いのけようにも、酒をこぼすまいと身体を支える手は背後のリネンの上についている。思いのほかやわらかい銀糸を撫でていた手はいつのまにやら掴まれていて、ああしまった、ぼんやりとそう思った時にはれろりと腹のくぼみを彼の舌が埋めるのだ。ぞくりと広がるあまいしびれに、すこし責めるような視線を送ってやれば、彼はそれすらもおもしろいと言うように口角を引き上げる。
「セッツァー」
 執拗に臍を這う舌と、身体を舐める手に辟易して名を呼んでも、彼はどうしたと言うばかりで顔すら上げやしないのだ。内股が濡れる感覚に酒の存在を思い出して脚を引き締めたその直後、不意に注がれた新しい酒のつめたさに喉が引きつる。こぼすなよ、そういたずらっぽく念を押されて、おれは二度目のため息をついた。
「じゃあ、飲めばいいだろう」
 こぼれる前に、とにやつく彼を軽く睨めつければ、つれないことを言うなよと頬を撫でられるのだ。こんなことをさせておいて、よくもそんな口が叩けるな。物好きも大概にしてくれ。膨れ上がった苛立ちにそう押し殺した声でなじってやると、彼は心外だなとその形のいい眉を上げた。
「おまえだって、物好きなくせに」
 違うか、と濡れたそこにゆるくたちあがっていたものを握りこまれて、膝が震える。ぐりぐりと先端を親指でいじくりながら酒を飲む彼の、その息づかいにさえ背筋がとけていくのは、その言葉が真である証なのだろう。だがそんなことを少しでも認めれば、この男はそら見たことかと言わんばかりにしたり顔をするに決まっているのだ。絶対に、首肯などしてやるものか。
「まったく、素直じゃあねえな」
 つまらなさそうに肩をすくめ、濡れた口許を手の甲で拭った彼は、ほどいたおれの髪を撫でるとくちづけを贈ってくる。しかしそれは、そっとふれるだけで離れてしまうのだ。その呼吸にはすっかり熱がこもってしまっているというのに、こどものように押しつけるだけでやめてしまうのだ。頬に、耳にと、その唇がつたうように落とされていく。皮膚の上を、指先がなにかを促すように流れていく。そのくせ、彼はおれを見ようとはしないのだ。視線を逸らしたまま、仕種でおれを責めるのだ。
(素直じゃあないのは、どっちだ)
 空になった腿の上に、再び酒を流し込もうとするその手を掴めば、彼はようやくその二藍の瞳を上げた。もう、いいだろう。そう投げやりを繕って熱い息を吐き出した途端、その唇が妖しく弧を描く。
「おおせのままに」
 そうして低くかすれた声が鼓膜に触れると同時、この身はシーツに沈められる。混ざる吐息、重なる唇、絡まる舌。いとも簡単に拍を早めるこの鼓動が、にくらしくてたまらない。だのにこの腕は、彼の背を掻き抱くのだ。知らず知らず、その背の傷痕を指の腹で愛撫しているのだ。
(ああ、まったく)
 酔狂だ。ふかくなるくちづけの間、そろりと伸ばした脚のしびれが、おれをあざ笑っているようであった。

同族


2011.11.12



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