『お前達の年齢ならいろいろ迷うことがある。もっと年を取って、経験を積んできた大人達だって自分の将来の全てを左右する選択を前にして、簡単に答えを出せはしないだろう。
高野、お前には実力がある。今後の半年にも満たない数ヶ月の間にさらに努力すれば、望む学校の合格くらいはたやすいはずだ。
だが、実力があるからこそ周りに流されて、自分を見失ってしまわないようにしてほしい。
世間では学歴を重視する。
高卒よりも大卒が偉くて、専門学校よりも東大出身の方が偉い。そんな奇妙な風潮だよ。
いい大学に入って、大手の企業に入って、たくさん稼いで豊かな生活を送る。それが悪いとも、保守的だとも言わない。それだって立派な選択で、たくさんの努力が必要なんだから。
だが、たくさん稼いで豊かな生活をしたって、夢を諦めて心にぽっかり穴が空いて虚無感にさいなまれるなら、それは本末転倒だ。
お前にはこの社会のトップに立つ実力がある。
俺はそう断言できるよ、高野。
国公立だって、その先の就職だって。俺の自慢の生徒が活躍すると俺は言いきれる。
だがな、高3のこの進路の選択はお前のこの先の未来を変えられる最大の、そして、大きな方向性を決められる唯一のチャンスなんだ。
教師としてならお前により偏差値の高い大学を勧めるべきだろう。だが、お前より長く生きてきた大人として、ここでお前が流されて、自分の進みたい道を見失ってほしくない。
焦る必要はない。
ゆっくりと考えて、見極めろ。
自分が何をしたいのか、この先の人生でどう悔いなく進んでいくのか。
お前が周りに流されて道を選ぼうと、自分の心に従って道を選ぼうと、長い長い人生では平等に困難が訪れる。誰にだってな。
だが、間違った道で立ちはだかる壁は困難で、自分が本当に愛する道にある壁は挑戦だ。そして、お前が超える壁が高ければ高いほど、超えた後、お前を守る城壁も高い絶対的なものとなる。
焦らずゆっくり考えろ。どの分野で、お前は困難を挑戦に変えられるんだ、高野。
高3のこの選択で決して間違えるな。
妥協せずに考えて、そして、答えが出た時は迷わずにその目標に向かって走れ。脇目もふらずにこの数ヶ月を走り抜けろ』
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時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。