3月16日 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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2.

ガラッ、とドアを開く。

僅かばかり立付けが悪いのも変わらない。

「…失礼します」

中も全く変わっていなくて、感慨というか懐かしさというか、とうに整理したはずの感情がまた疼いて嬉しさと痛みが入り混じる。

過去問や赤本から小説、辞書に至るまでぎっしりと詰め込まれた本棚。整理されたたくさんのファイル。机に平積みにされている資料もあって、なのに、埃一つなく綺麗だった。

紐で束ねられた藍色のカーテン。

その隣にあるラックにはリスニングのCDが入っていて、どのCDにどの大学の何年の問題が入っているかまで俺は詳しく知っていた。

あの頃と何も変わらない部屋。

まるであの頃に戻ったようだった。

そして、机に資料を広げながら俺の方を見ているその人も何も変わっていなかった。

「久しぶりだな、高野」

「滝内…、」

「いや、先生ってつけろよ」

「教育実習だから仕方ないか。滝内先生」

高鳴る胸とは裏腹に、口は問題なく動く。だが、カラカラに渇ききった喉は絶対に滝内にだけは知られたくなくて必死に誤魔化す。

そんな俺の鏡中も知らず、いや、知らなくていいが、滝内は滝内は軽口を言う。

「あー、やっぱりお前に先生って呼ばれたくねぇわ。無理。違和感がすげぇ」

「え、ひど」

「だから、二人っきりの時は今まで通りでいい。生徒とか、他の先生方の前ではさすがにそう言ったらんねぇけど、」

二人っきり、とか。

またそんなことを言う。

確かに指導があったり、教材を運んだり、二人っきりになるのは避けられないだろう。だが、それは他の教育実習生と担当の教師もそうなるし、別に特別なことじゃないんだ。

なのに、妙に反応してしまう俺には、きっとまだ昔の想いの名残りが残っている。

欠片のような、余韻のような。

名状しがたい名残りだった。

だが、その癖に滝内はもう独り身じゃないという事実は俺がよく知っていた。あれから3年。もう子供がいても不思議じゃないだろう。

やはりこの恋が実ることはないのだ。

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時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。