「あぁ、そうそう」
だが、八長先生が爆弾発言を投下する。
「高野くんには申し訳ないんだけど、教育実習の担当、私じゃなくなっちゃったのよ」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
そんな俺に八長先生は苦笑いをして、棚にあったファイルを開いた。そこには『教育実習生の担当教員変更のお知らせ』と書かれた通知があって、変更先も明記されてあった。八長先生は俺が見やすいように、通知を差し出した。
「ごめんなさいね。急に決まったことで…」
「構いませんが、どうしてですか?」
「知ってる先生についた方が実習生もリラックスして効率がいいっていう学校の考え方」
「なら、俺は八長先生が一番で」
「高野くんはそうだけど、英語の実習生の中には私の教え子であって彼の教え子じゃない子がいるの。…まぁ、高野くんとも親しかったらしいし、私は大丈夫だと思うわよ?」
うちは中高一貫校だ。高等部では外部入学もあるから生徒数は膨れ上がり、クラス数も中等部よりいくらか多くなっている。
HR(ホームルーム)を担当したりなど、教師の仕事を学ぶ機会をできるだけ多く与えるために、教育実習生は基本的に1人1クラスずつ担当する。それだけのクラス数がある。
そして、八長先生の教え子を八長先生が担当するから俺の担当は別の先生になる。
割と懇意にしていた先生、と思って間違いないだろう。だって、責任感のある八長先生が俺を一学期くらいしか教えなかったあまり親しくない教師に渡すとは思えなかった。
だとしたら、
(まさか、)
ピクッ、と頬が引きつる。
高等部の英語の先生。俺と親しかった人。彼、と言っているから男性だ。まだ確定じゃないのに、脳裏に浮かぶ人の姿があった。
緊張か、不安か、それとも期待か。
心臓が落ち着いてくれる気配はなかった。
「高野くんの担当は、」
二人で通知を覗きこむ。
俺の名前を探して、変更先を見る。真っ白い紙に印刷されている名前は、
「滝内先生ね」
滝内政春。
まさに俺の人生を変えた人であり、俺の落ち着きそうにもない鼓動の原因その人。
何度瞬きしても、目を擦ってみても変わってくれそうにないその名前は、これから先の3週間、俺がその人と過ごすことを示していた。
[ 16/21 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。