3月16日 | ナノ
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8.


「あのさ、滝内」

足元を見ながら話しかけた。

街灯に照らされ、俺達の影が長く伸びていく。それはある程度まで伸びると、また次の街灯にさしかかったところで一度短くなってまた伸びる。視界の端に薄紅色がちらついた。

「お前さ、いい加減先生ってつけろよ」

「皆呼んでるし。てか、今は友達だろ?」

「…まぁ、そうだけど」

「…話したいことがあるんだ」

喉がひどく渇く。

俺はふと脚を止めてしまった。俺の隣を歩いていた滝内は数歩歩いて、だが、俺が歩かないことに気が付いて立ち止まった。振り返って俺を見る顔がとても不思議そうだった。

好きです。

たった四文字の言葉。

俺にだけメールを送ったりとか、俺を特別扱いする時があるから、返事はある程度期待していいのかもしれない。だが、緊張で心臓はバクバク鳴り、口は引きつったように動かない。

「…高野?」

その時だった。

滝内の携帯が鳴ったのは。

軽快な電子音が俺達の間に流れていた沈黙を打ち消し、俺の緊張を少しだけほぐす。

「悪い。ちょっとだけ待てな」

ポケットから携帯を取り出した滝内は通話ボタンを押して、耳に当てた。画面を見た瞬間、滝内の表情が柔らかく綻んだ。

時間帯は既に遅めの夜で、しかも公園の隣で車もない。俺もしゃべらないからとても静かで、電話の声が聞こえてしまった。誓う、決してわざと盗み聞きしたわけじゃないんだ。

電話の相手は若い女性だった。

『政春?遅いけど大丈夫?』

政春、と滝内の下の名前を呼んだ。

「大丈夫だよ。楽しくて長引いて…」

『なら、よかった』

「今から帰るとこ。眠かったら先に寝てろ」

そんな会話だった。

政春と呼んでいて、しかも先に寝てろとか同居している彼女だと思う。衝撃に硬直する俺は、その時初めて携帯を持つ滝内の左手にキラリと光る指輪があるのを見付けた。薬指だ。

教師という仕事柄アクセサリーは着けていなかったが、今日は私服。今まで恋人がいるそぶりもなかっただけにひどく驚いた。

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時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。