3月16日 | ナノ
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4.


重たく胸を打つ言葉だった。

そして、それは今まで俺が思い描いていた将来設計を見事に打ち壊し、俺に顔を上げて未来を見据える力を与えるには充分すぎていた。

親しみやすいとか、年が近いとか、そう思っていた滝内が一気に大人っぽく見えた。いや、6歳も離れていれば当然かもしれないが、こんな大人になりたいと心の底から強く強く願った。

その場では滝内に言わなかったが、面談をしたその時から俺の心は決まっていたんだ。

教師になりたい。

高校の、できれば英語の教師に。

その日の夜、俺は教育大学とか教育学部とかの情報を漁りまくった。で、そこで気に入ったのがこの数ヶ月後の前期試験で無事に合格を掴み取った国立の教育大学だったのだ。

結果的に言えば無事に合格したが、出願直前の面談まで滝内に志望校を黙っていた。焦らなくてもいい、と言っていたが、その頃にはさすがの滝内も焦っていて少し笑ったのは内緒だ。

合格通知を受け取るまで、たくさんのことがあった。滝内が来たのは9月だから残念ながら修学旅行は既に終わっていたが、最後の文化祭も秋の遠足も皆で一緒に楽しんだ。

滝内は教師のイメージから離れて少しだけ口が悪くて、だが、誰よりもクラスを思って、尽くして、俺達を心から誇りに思っていた。

『俺の自慢の生徒だ』

それが滝内の口癖だった。

本当に最高の先生だった。優しくて、ノリがよくて、英語の解説では俺達が理解して納得するまで何度も何度も根気強く繰り返し、挫けそうになれば励まして奮い立たせてくれて、誰よりも勝負時を知っていて時に少しの妥協も許さない。

滝内は英語の教師だったが、それ以上のものを教えてくれて、俺に教育学部を志願させた点では俺の人生を変えた恩師だった。

俺はそんな滝内が好きだった。

生徒にあるまじき恋愛の意味で。

思春期の大人への憧れを恋だと勘違いしたのかもしれないし、受験という不安になる時期に滝内を心の拠り所にしたのかもしれない。

いつ恋に落ちたのかもはっきり言えなかったが、俺は確かに滝内を見ると心が高鳴って、滝内の授業は特に集中して聞いていた。

片想いしている人の一挙手一投足も見逃したくなくて、授業に集中しているうちに英語の成績だけやたらと伸び、センター試験前の最後の筆記試験では英語の成績がもはや恐ろしかった。

偏差値80台を叩き出したのだ。

成績表を持って滝内を探しに職員室に言って、誇らしげに微笑む顔を見た途端にもう心臓が破裂するんじゃないかと思うほど高鳴る。ドキ、ドキ、と呼吸が苦しくなるほどに。

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時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。