※慧side
もしも浮気だとしても責めるつもりはない。
いや、…責める権利がないんだ。
仕事と言っても本物の恋人の前で女を取っ替え引っ替えして、やっと重なった貴重な休日に女とデートをして恋人を放置したんだ。
嫉妬はするし、腸(はらわた)が煮えくり返るほど怒っている。だが、こんな俺に皓に詰め寄る権利なんてないし、…何より愛想を尽かされて捨てられるのが怖くてたまらない。
誰よりも皓を愛している自信がある。
なら、誰よりも皓に愛されている自信もあるって果たして言うことができるんだろうか。
(無理だろうな、)
正直に言って、釣り合わない気はしていた。
落ち着いていて、実力もあって、なんでもこなす皓と、まだまだ未熟で、プロの情報屋としても駆け出しのひよっこの自分。
前から自覚はあったんだ。それで今回の任務でさらにまざまざと思い知らされた。イカサマも何も知らないし、得意なハニートラップは使う場所さえなくて、足を引っ張ってばかりいる。
一歳しか違わないのに、その差は一年じゃない。
自惚れていた。
恋人になれたから、好きって言ってもらえたから、隣に立てた気でいたんだ。
実際、格の違いもいいところで、俺より恋人に相応しい人はたくさんいるんだろう。実力も落ち着きももっとあって、もっと大人な人が…。本当の意味で皓に釣り合う同格の人が…。
(悔しい。絶対に渡したくねぇな)
だが、彼の心を掴んだままでいることが、今の未熟な自分にできるんだろうか。
皓に気を遣わせてさえいる自分に。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。