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5.


伊瀬と出会ったのは高一の冬だった。

あの時の俺は大人びた、…いや、嫌な意味でマセたガキで、世の中を冷ややかな目で見ていたわりには社会に触れようとはしていなかった。

容姿から言い寄ってくる女はいくらだっていた。それを受け流すことにだって慣れていた。異性から向けられる感情をそっと流して、付き合いを良くして男とも女とも適度な交友関係を維持する。

良く言えば順風満帆な、悪く言えば上辺の付き合いしかない生活だった。まだまだ大人になりきれない子供の下手な処世術だったんだ。

だから、スリルが欲しかった。

今思えば、それだって未熟さから来る若気の至りであり、勢いだったんだろう。

そして、冬の日、繁華街で若い男が目に入った。

大学を卒業したくらいの年齢で、いや、雰囲気が落ち着いているからもっと上なのかもしれない。上品な茶髪の人。長い財布は無防備にジーンズのポケットに入れられていて、はみだしている。

とれそうだ、と。ふとそう思った。

だから、通り過ぎるふりをしてわざとぶつかった。

『すみません』

好青年を意識して謝った俺に、彼は気を悪くせずに軽く頭を下げただけだった。だが、通り過ぎた瞬間、長い財布は既に俺が持っていた。

緊張とか、達成感とか、興奮とか、そんなものはなかった。あぁ、こんなもんか、って簡単に行えたことに肩透かしすら食らった感覚だった。落胆だ。

彼は最後まで俺に財布を盗まれたことに気付かず、去っていってしまった。

だが、結局、驚かされたのは俺だった。

財布の中身が尋常じゃなかったのだ。何十万もの現金、異常な数のカード。しかも、よく見れば、カードに書かれていた名前は全て違っていた。

さらに、柔らかい革製の財布の表面に一ヶ所だけ硬くなっているところがあった。偶然見付けたその場所を念入りに触れば、小さな何かが埋め込まれているようだ。…パソコンに入れるチップのような。

やばい人の物を盗ったかもしれない。

そうは思ったが、彼はもう俺を探し出せない。それに、万が一俺を探し出してくれたならスリルを味わえるかもしれない、と少し楽しんでいたから財布を捨てなかった。期待はしていなかったけれど。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。