『いいかい、よく覚えておきなさい』
そうやって話しだした彼はいつもの穏やかさを保ちながらもいつもよりずっと真剣な表情をしていて、荒野の鷲を思わせる強く凛々しい眼差しは決して俺に目を逸らして逃げることを許さなかった。
『情報屋って呼び方は格好いいかもしれないけれど、僕達は依頼っていう大義名分を得ただけのコソ泥でしかない。盗みで生きているんだ』
朝日が昇る窓の傍、白っぽい光に照らされた彼が微笑む。淡いその光を横顔に浴びると同時に、もう片方の横顔はほの暗い影を保ったままだった。
なのに、眼だけは強く、強く煌めいていた。
『勘違いしてはいけないよ。ここは綺麗な世界じゃない。人が求めるからこそ宝石が輝いて見えるように、欲望が満ち溢れているからこそ僕らが生きている裏の世界は華やかに見えるんだ』
ふと微笑みが苦笑いに変わる。
『君にはいずれ人の醜い欲望を目の当たりにし、それに触れる日が来るだろう。…けどね、』
彼の言葉が一瞬途切れた。
そして、次の瞬間、長い睫毛の向こう、俺に向けられた眼差しの奥には温もりがあった。
『一歩間違えれば欲望に呑まれて良心すら失うこの世界でだって、人を守ることはできるんだよ』
とても心地いい包み込まれるような温かさ。
それは彼を失って以来久しく感じていない安堵感で、守られる時特有の感覚だった。
『…だからね、コウ、』
彼が傍にいてくれた時、俺はまだ雛だった。
仕事の重さが分かっていなくて、守ってくれる彼に何も考えずに頼りきっていたから、
『闇を知り、闇を恐れず、闇と同化しながらも淡く自分の道を照らして歩んでいく』
だから、彼を失ったんだろう。
『朝日となりなさい』
誰よりも俺を大切にしてくれた彼を。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。