普通のチップに戻すと言っても、また別のゲームで遊ぶというわけじゃない。
それぞれのゲームのテーブルは換金を行っていない。チップを現金に戻すには専用のカウンターに行かなければならず、ルーレットチップを普通のチップに変えて持って行くのだ。
ディーラーは数秒固まった後、あたふたとしながら普通のチップを用意しだした。
89億2,800万。
ここまで大きな金額であれば、使われるチップはまた変わってくる。今までは見なかったオレンジ色のチップが出てきた。サイズは他の物より一回り大きく、1枚で2億5,000万を表す。
この大きめのオレンジが35枚で87億5,000万。5,000万を表すチョコレートが3枚で1億5,000万。500万を表すパープルが5枚。100万を表すブラックが3枚。合わせて46枚。
「さぁ、換金しにいこうか」
慧の微笑みは色っぽくて綺麗だったのに、俺には悪役のように見えてしまった。どうやらカジノでの初めてのイカサマが成功して嬉しいらしい。
だが、慧とは真逆で、播磨の顔色はぞっとするほど悪かった。今にも倒れてしまいそうに青白く血の気が失せていて、搾りだした声も病人かと心配するほどか細くて弱々しいものだった。
「………えぇ。…お連れ致します」
慧に46枚のチップを渡されて、丁寧に受け取る。大金を手に入れたことは嬉しいものの、執事として素直に主人のために喜べないという微妙な表情を装いながら、何か言いたげに唇を開いては閉じた。
どうか悪く思わないでほしい。
こちらも仕事なんだから。恨むなら、法に背いたことをした自分達を恨めばいい。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
それと同じように、喰われる覚悟を持つ者にしか相手を喰らう権利はない。
この時の俺はまだ気が付いていなかった。この先で待ち受ける虎の姿に、眈々とこちらを狙う目に、首のすぐそこまで迫った牙と息遣いに。
(act.1 運試しの勝負 終)
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。