ふぅ、と目立たないように息を吐く。
運命の女神は俺達に微笑んだ。播磨がボタンを押したかどうかなんて、そんな過程はどうでもいい。緩やかに回り続けるホイールの緑の0のポケットにボールがある結果だけで充分だ。
「そんな、私は、……っ!!」
珍しく播磨が声を荒らげた。
言いたくても言えない言葉、悔しそうに途切れた先は播磨が言わなくても俺に伝わっていた。播磨はボタンを押した、だなんて今更分かったところで安堵も緊張も与えてはこなかった。
(このゲームは、黒の26に落ちるはずだった)
それが人が介入しない運命。
だが、播磨はボタンを押し、コイルに電流を流した。慧が緑の0に賭ける方が先だったから、恐らく反対側の離れた場所に流しただろう。
そして、播磨がリモコンを使って出した電波は俺が持つリモコンに変換され、緑の0とあらかじめ決めていた場所への偽物の命令として、テーブルに仕込まれている本体へと到達した。
もちろん、慧も緑の0だと知っている。俺がそのポケットに指定することも、慧がそこへ全額賭けることも全て事前に打ち合わせをしていた。
もしも、播磨が押さなければボールはギリギリ黒の26へと落ち、俺達の負けとなった。
だが、最後の一瞬で引っ張られたのだ。
コイルによって磁石となった緑の0に。
播磨からしてみればありえない話だろう。だが、細工をした形跡は念入りに消し、俺達二人にもアリバイがあるのだから疑われることはない。
ルーレットは人知の及ばない運の世界。どのポケットにも落ちる可能性はあり、またその可能性は全て等しい。俺達のイカサマを疑うには自らのイカサマを白状しなければならない。それができないのだったら、結果を認めるしかない。
そこにやましいことなんて何もしていないという表情で、慧が追い討ちをかけた。
「もう遊ばねぇから普通のチップに戻せ」
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。