俺のイカサマが成功するには前提がある。
それは播磨がイカサマすることだ。播磨のリモコンの電波を奪って変換して送信するということは、逆に言ってしまえば、播磨がボタンを押さなかったら変換できる電波もない。
位置は問題ない。準備だって念入りにした。だが、最後の肝心な時に播磨がボタンを押さなかったら全てが台無しになってしまう。だから、なんとしても播磨を追い詰めなければならない。
「…それでは、ゲームを開始します」
硬い声色と共に、ベルが一回鳴らされた。
誰も動かない。ポケットに手を入れたまま硬直する播磨も、チップを握ったまま緊張も見せずにルールを眺める慧も行動を起こさない。ゴクリ、とディーラーが呑んだ固唾が響いただけだった。
数秒が経過した。ほんの僅かな短い時間であるはずなのに、重々しい無言がこのたったの数秒をどこまでも長引かせていく。
ホイールが回される。
赤と黒を交互に流していくそれはかなりのスピードで回り、緑色のテーブルによく映えた。数字なんて見えるわけもなくて、逆方向に投げ入れられたボールだけが軽快に転がっていく。
コロコロ、コロコロ、と一周して、また一周しては結果を見せようともしない。
真っ赤なチップを器用に指でクルリと回転させて、そして、ついに慧はそれを一直線へベッティングボックスへと置いた。
俺達が狙うのは、
「…………0だ」
1目賭け。倍率36倍。
確率わずか2.7%という奇跡にも等しい勝率を持つその賭けは、同時に全てのカジノゲームの中で最も高い配当を持つものでもあったんだ。
慧の長い指がチップから離れるのと二回のベルが鳴らされるのは、ほとんど同時だった。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。