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6.


バク、バク、とやけに鼓動が響く。

だが、その鼓動が痛くて、胸が痛みを訴えて、冷や汗が首を伝い落ちる感覚がした。

そんなはずはない、と分かっているのに、どうしようもなく喉が渇いて緊張する。加賀美を見る俺の視線が鋭くなっていく自覚があったが、それを和らげることはどうしても無理だった。

(俺と伊瀬のことを知っているのか?…いや、そんなはずが、だって…!!)

あの一件は闇へと葬られた。

事件に関与した警官達は口に出すことを禁じられ、依頼の相手はほとんどが伊瀬によって息の根を止められた。伊瀬は俺が戻る前に息を引き取り、そして、俺は誰にも何も語らなかった。

蓮や尋斗だって知っているのは伊瀬が死んだという結果だけで、具体的にどこでミスが起き、なぜ伊瀬が死んだのかを知らない。

それなのに、加賀美が知っているはずがない。

(違う。あのことを話しているわけじゃ、)

ない、と言いきれるのだろうか。

だが、間違いなくあの一件の話をしているのだとしたら、加賀美はどこでその情報を得て、どうしても今ここでこの話をするのだろう。

加賀美に見えない角度で手の震えを止めるために強く拳を握れば、慧が心配そうに俺を見た。俺の手に触れることこそなかったが、優しいその眼差しにいくらか呼吸が楽になる。

なのに、加賀美の追い討ちが続く。

「裏切り、だと思わないか?」

強く、奥歯を噛み締めた。

(…あぁ、思うよ、俺自身)

あの日から、そう思い続けてきた。

俺が警官達を連れてくるまでの辛抱だって、そう信じてた伊瀬への裏切りに他ならない。

ミスをしたのは俺なのに、責任を取らされたのは伊瀬だった。本来なら今この時も笑顔で生きていたのは伊瀬だったのに、俺がそれを奪った。伊瀬の命を、未来を、幸せを奪ったんだ。

言い訳、なんてない。

もし伊瀬が無念を晴らそうと俺を訪ねて、俺が命を伊瀬に返せたらそうしている。

だが、どうしてだろうか。

裏切りが紛れもない事実なのに、俺だってそれを認めているのに、ここで慧に同意されてしまうことがひどく悲しくて、いっそこの場から消えていなくなりたいと切実に思った。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。