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恋しい香りの芳しさ


微睡みの中で目が覚めた。

夢から醒めて、まだ瞼が開かなくて意識がはっきりしない。だが、ベッドの柔らかさとか、抱き締めてくる温かさとかを感じる。

心地良い微睡みを失いたくなくて、瞼を開くことを拒絶する。俺の傍にいた温かい何かが寝返りを打って、その途端に冬の冷気が隙間に入り込むから、きつく抱き締めて擦り寄った。

(動くな、寒い)

クスクス、と軽い笑い声。

腰に回された腕に力強く抱き寄せられて、包み込まれるようだ。とても心地良い。

ムスクと紅茶とシトラスが混ざった上品ながらも痺れるように爽やかな香りが肺いっぱいに広がって、ちゅ、と何かが額に触れる。

やはりもぞもぞと動くから脚を絡めて固定すれば、ツンツン、と遊ぶように頬をつつかれた。思わず眉を寄せてもまだ続くものだから、噛んでやろうとすれば迷惑なそれが逃げていく。

そして、また楽しそうな笑い声。

「んー…」

また、ツン、ツン、と微睡みを邪魔する。

(やめろ、眠いんだ)

また噛もうとすれば今度も容易く逃げられて、そして、下唇をなぞらえる。ゆっくりと、俺の唇の感触を楽しむかのように。

擽ったくて、いい加減観念して瞼を開ければ、そう遠くないところに端整な顔があった。赤っぽい茶髪に、切れ長の淡い茶色の目。寝起きのそれはいつもより柔らかく、優しかった。

瞬きをしても、まだぼうっとする。

寒さから逃げるように首筋に擦り寄って、脚を絡める。触れ合った太股から伝わる体温に安堵してしまって、頬が緩むのを感じた。

だが、次の一言で覚醒した。

耳朶に唇が触れ、吐息が鼓膜を揺らす距離。そんな至近距離で寝起きの掠れた低い声で囁かれて、ぞわっ、と背中が粟立った。

「おはよう、皓」

「っ、慧!?」

一気に目が覚める。

微睡みなんて遠い彼方に飛んでいった。

あの温もりが慧の体温だと分かり、先程まで自分のしていたことを思い返して恥ずかしくなる。頬に熱が集まる感覚がして、一気にベッドから降りようとまずは上半身を、

「おい、無茶すんな!」

起こしたところで問題が起こった。

「ぁっ、いった!!」

腰を襲う激痛。耐えきれなかった俺は腰を押さえて、またベッドの中に逆戻りした。芳しい香りのする愛しい人の腕の中に。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。