伊瀬は最後まで生きようと足掻いた。
迎え撃った組員も近くに息なく横たわっており、伊瀬が持っていた銃も弾が切れていた。
壁や床に残っている跡は激しい銃撃戦を物語っていて、割れた窓から雨が入ってくる。撃たれたとしてもこんな派手に血を流したのは、きっと撃たれてもまだ激しく動いたからだ。
殴られて腫れた頬。肩、胸、腹部、足、いくつもの銃創からはまだ血が溢れている。
だが、そうなってなお伊瀬が倒れていた場所は俺と別れた場所から一歩も動いてなくて、その先に通した人も一人もいなかった。
『…い、せ…!』
泣いて、泣いて、警察が全てを片付けてここまで来る頃には声が枯れていた。
何が警察を呼びに行けだ。
警察が来ても伊瀬はとっくに死んでいた。警察を恨むつもりはない。本来容易く片付くはずの任務でミスしたのは俺で、伊瀬を置いて一人で逃げていったのも俺だったんだから。
自分以外に誰を恨むことができたんだろう。
もし、任務を引き受けなければ。
もし、もっと注意をしていれば。
もし、あの時、俺が残っていれば。
もし、無理矢理にでも一緒に逃げれば。
もし、だなんて後悔はたくさん出てくる。だが、仮定の話が現実になることはなくて、伊瀬は永遠にこの世を去ってしまった。
彼を殺したのは誰か。
それは撃った組員でもなく、救助が遅れた警察でもなく、彼を窮地に立たせた俺だった。
俺が責任を負うべきだった、と今でも思う。
伊瀬が死ぬべきじゃなかった。本来ならこの時も、今も元気にしているはずだったのに。今俺の元にあるのは伊瀬があの日につけていた指輪一つ。それだけだ。それだけしかなかった。
伊瀬が亡くなって二年。
毎年命日には墓参りに行った。彼が冗談で俺に頼んだ黄色やオレンジの明るい花束を持って。
だが、それがどれほどの贖罪になるんだろうか。
これっぽっちの役にも立ちはしないだろう。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。