無我夢中で走った。
出口まで果てしなく遠いように感じた。その途中で俺を捕まえようとしたり、殺そうとする組織の奴らもいたが、少ないから俺でも対処できた。
大丈夫だ、伊瀬はきっと大丈夫。
だって、あれだけ強いんだから。
警察が向かう頃にはきっと全てが終わっていて、遅かったなって、こんなの僕の相手じゃないって、仕事が終わったから食べに行こうって、いつもの笑顔で俺に言ってくれるんだ。
そう信じていたのに。
俺は外にいる警察にメモリーを投げ渡すと、全力疾走してきたその足で戻った。
警察が俺の後ろに続く。ここからは警察の仕事だ、外にいなさい、と制止する声が聞こえたが、そんなものに従うつもりは毛頭なかった。
だが、息も絶え絶えに戻れば、
『伊瀬!』
力なく横たわる彼がいた。
体の下には真っ赤な血が広がっていて、その量は一目で致死量だと分かるほどに夥しい。
むせ返る鉄錆の臭い。カーキ色のコートの腹部と胸部は元の色が分からなくなるほどに血を吸っていて、だが、血はまだ酸化していなかった。
『おい、伊瀬ッ!!』
触れればまだ温かい。
だが、確実に事切れた後だった。
息も脈もなくて、開いたままの綺麗な目が俺を映すことは決してなかった。抱き締めた彼が優しく微笑んでくれることはなかった。
血も体も温かい。俺がいなくなったこの数分のうちに、伊瀬はいなくなってしまった。死んでしまった。殺されてしまったんだ。
窓の外では粉雪が土砂降りの雨に変わった。
雨になったばかりの雪は凍えて、コンクリートを打ち付ける音が煩くて、伊瀬が冷たくならないようにぎゅっと強く抱き締めたのに、腕の中で体温が消えていくのが伝わってくる。
伊瀬が生きていた証が、消えていく。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。