激しい律動に容赦はなかった。
ぬちゃぬちゃ、と慧の先走りで音がする。ローターは中でそれを泡立てて、外まで出ているコードも悪戯に粘膜を撫でていく。
何も考えられなくなって、自分で前に手を伸ばした。だが、その手が熱に触れる前に慧の手が伸びてきて、引き剥がされてしまった。そのまま両手首まとめて壁にきつく押し付けられた。
俺の両手首を片手で拘束しているのに力は強く、ビクともしない。俺は快楽で力が抜けているから当然かもしれないが。
そして、俺を支配する慧が小さく笑った。
「勝手に、…触んじゃねぇぞッ」
慧も息が乱れていた。
浴槽の中で膝立ちにさせられた俺は手も動かせなくなって、せめて快楽を逃がそうと壁に頭を預けた。だが、慧のもう片方の腕は俺の腰に回されていて、律動の衝撃を逃がす方法はなかった。
「ァん、ッは、…ぁあ!…く、ぅあ、」
ガリガリ、と余裕が削られていく。
浴室で乱れた息が二重になって聞こえるが、喘いでいるのはほとんど俺だ。
だが、快楽に呑まれた今、その羞恥すらどうでもよくなって、頭で処理しきれない強烈な快楽に思考がついていけない。ただ体を揺さぶられて奥を突かれる度に甘える鳴き声が出た。
ふと肩に何かが触れた。
僅かに振り返ると赤っぽい髪が見えて、柔らかいそれが慧の唇だと知った。ちゅ、ちゅ、と肩を啄まれて、時折強めの痛みを残す。
その唇がほんの少し震えていた。
「皓…っ!」
艶を帯びた低い掠れ声。
その声に名前を呼ばれただけで、炎が燃え上がるように体の芯が熱くなる。
(…もっとほしい)
名前を呼んでほしい。愛してほしい。
快楽で背筋がゾクゾクと震え、唇がわななく。シャワーはとっくにとめられたのに浴室は熱気に満ちていて、鏡は曇ったままだった。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。