そして、同時に不安がっていた。
慧の心が他人に移るのは心配していない。
慧は俺を、俺だけを愛している。それだけははっきりと自信を持って断言できる。
そうじゃなくて、別の不安があった。慧は俺を信じていないんじゃないか、って。
だって、俺を信じてくれているなら分かるはずだ。金で愛を売るような、異性に甘えて媚びる仕事しているとしても俺の本気の愛情は誰にも移らなくて、慧にしか向かない、と。
俺は慧を信じていたからハニートラップを許した。だが、…慧は、許してくれなかった。
(…それってつまり、)
俺を信用していないんじゃないのか。
目移りする、と心配したんじゃないのか。
(…慧の中の俺はそんなに軽いのか?)
それが気になった。だから、俺は今夜それを確かめたかったのかもしれない。
慧の観察眼が鋭いことは前からよく知っていた。だって、慧の得意な人心の把握や誘導にはまず観察が欠かせないんだから。
俺は心の深くで予想していた。
ハニートラップはきっとバレる、と。
反応が知りたかった。仕事だと割り切って理解してくれるか、嫉妬しながら甘えてくるか、…それとも浮気を疑ってくるか。俺に水商売を辞めさせたのは嫉妬か、信用していないのか。
(結果は最悪だ)
浮気を疑われた。
弁解しなかった俺にも責任があるかもしれないが、射殺すような眼差しはひどく鋭かった。
(…信用、されてないんだな…)
はは、と乾ききった笑いが零れた。
小さな笑い声はシャワーに消されて浴室に響くことはなかったが、俺自身の耳にはちゃんと入ってきた。それは寂しくて、虚しくて。強く強く唇を噛み締めれば、じわりと鉄錆の味がした。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。