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14.


俺が悪かった、とも思う。

慧の言うことにも確かに一理あった。

今夜行われた買収の話にハニートラップが絡む要素なんてなかったし、情報屋として経験の豊かな俺ならば、わざわざ餌として体を差し出さなくても話術だけで充分加賀美を誘導できた。

慧は伊瀬のことを知らない。だが、それだって話術で聞き出すことも可能だった。

だが、俺はそれをしなかった。

ハニートラップを選んだんだ。

効率がいい、と言えばそれまでかもしれない。だが、いざ商談が終わって、理性が戻ってきた頭のどこか深くで落ち着いて考えれば、効率以外に他の理由が存在していた。

(…確かめたいことがあった)

慧の態度が嫌だった。

俺が大事なのは分かる。誰にも触らせたくなくて独占したいのも、痛いほど分かる。俺だって慧を愛していて、ずっと独り占めしていたい。

だが、現実は俺にはホストを引退させたのに、慧はまだハニートラップを続けている。

不平等って思っているわけじゃない。

だって、ハニートラップは慧のスタイルであって、ホストは俺の本職じゃない。接客担当のホストじゃなくてもクラブ経営に支障はない。

(不平等っていうよりも…、)

…嫉妬と、不安だ。

ハニートラップを仕掛ける前、慧は必ず俺に詳細を話してくれる。どんな依頼で、どんな情報が狙いで、ターゲットはどんな人で、期限はいつまでなのか、全部教えてくれる。

だが、それでも考えてしまうんだ。

相手の女性と何をしているんだろうか。

甘く蕩ける言葉を囁いているんだろうか。

俺が大好きな大きな手で相手に触れたり、仲良く腕を組んだり、見ているこっちも心が温かくなる微笑みを向けているんだろうか。

…もしくは、ベッドの上で…。

慧を出迎える度、シャツについた口紅を見る度、染み付いたレディスの香水を嗅ぐ度、俺の隣で楽しそうに電話する慧を見る度にそんなことを思って、胸が刺されるように痛んだ。

それが彼の仕事だと分かっていても。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。