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11.※


「誰のことを考えてる?」

俺が考え事をしてきたことに気付いたらしい。

だが、慧の言葉は、何を考えている、じゃなくて、誰のことを考えている、で胸の中に重たい石が入り込んだように息が苦しくなった。

お前のことだ、なんて本当のことを言っても信じてくれなさそうな険しい眼差しに口を開くことすら億劫で、俺は静かに瞼を閉じた。

そうすれば、本日何度目かの舌打ち。

「俺には知られたくねぇって?」

どうせ、信じないくせに。

瞼を閉じていても慧の姿を思い出せる。赤っぽい茶色の猫っ毛、色っぽい唇、端整な顔に、隙のない切れ長の目。だが、その目が俺を見る時は優しくて、愛情が滲んでいて、冷たさや険しさなんてこれっぽっちも存在していなかった。

なのに、今瞼を開けば、刃のような眼差しが俺に突き刺さっているのだろう。そう思えば、どうしようもなく泣きたくなった。

はぁ…、と苛立ちを押し殺した溜め息。そして、慧の指が後孔から抜かれていった。

「興醒めだ」

慧は背中を俺に向けているから表情は見えない。浴室の鏡を利用しようにも、先程の湯気で曇ったままの鏡では何も見えなかった。

慧が浴槽から出ていく。俺の手を縛っているネクタイを解こうともしないまま。

「…け、い」

俺の声に一瞬立ち止まった。

だが、次の瞬間にはまた歩き出していて、振り返ることをしなければ、もう一度立ち止まってくれることもなかった。慧の長い足ではたった数歩で浴室を出て、俺一人が取り残された。

大好きなシトラスと紅茶とムスクの香りが弱々しくなって、浴室で霧のように消えていく。

代わりに自分の体からほのかに香ったウッディとベルガモットの香りに、絡みつくようなその香りに、嫌悪感が湧いて吐き気がした。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。