鋭い痛みに俺はもう息も絶え絶えだ。
敏感な首筋をゆっくりと滑る舌先には感じるものの、それは恐怖の滲んだ快感で、慧はそんな俺を一瞥したかと思うと離れていった。
シャワーがとめられた。ベリ、と包装を破く音がして視線だけをそちらに向ければ、慧が新品のシャワースポンジを取り出すところだった。それを濡らして、ボディーソープを垂らす。
そして、スポンジを揉んでいくうちに、真っ白で柔らかそうな泡が出てきた。
「加賀美にどう触られた?」
慧が再び俺の前に立つ。
濡れてシャツや髪が肌に張り付いているが、慧の服装は全く乱れていない。裸で腕を拘束されている俺の頭から爪先まで、慧の冷たくて苛立しげな視線が走るのを感じた。
「答えろ」
どう触られたか、なんて。
俺に答えらるわけもない。
あの時は情報を奪うのに必死になっていて、ふと油断すると湧き出る嫌悪感と戦っていたんだ。覚えていられないし、あんな鳥肌が立つ嫌な記憶はとっくに捨て去っているんだ。
それに仕事でのハニートラップだという大義名分があったとしても、こんな形で慧に他の誰かとの情事を絶対に話したくなかった。
視線を伏せて、奥歯を噛み締める。
そうすれば、チッ、と鋭い舌打ちが飛んだ。
「もういい。黙っていたいなら黙ってろ。俺が勝手に洗うから暴れんじゃねぇぞ?」
泡立ったスポンジが肌に触れた。
慧は眼差しこそ鋭かったが、俺を洗ってくれる手付きは優しくて丁寧で、ほんの僅かに震えているようにさえ感じた。その震えはほとんどスポンジに吸収され、注意しないと分からない。
耳の裏から首筋、鎖骨、腕と滑っていく。鬱血痕を忌々しそうに睨んでいたものの、そこを洗わないのも俺への配慮だったんだろう。
(だったら噛むなって話だが、)
だが、こういうと絶対に怒る。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。