奪われたジャケットが、ぺちゃ、と湿った音を立てて捨てられる。慧の手がベルトに伸び、制止しようと俺も手を伸ばしたが、鋭い目で一睨みされると慧を許さざるをえなかった。
外されたバックルから、重力に従ってベルトも落ちる。片手で容易くファスナーを下ろされたスラックスも、滑り落ちていった。
慧の長い指が下着にかかって、一気に引きずり下ろされる。そのまま下着も、スラックスも、靴下も全部剥がれてしまった。
慧の指先が太股を伝って滑る。
「っん、」
刺激が欲しい。
加賀美に抱かれそうになった時は無理矢理慧で想像して体を高ぶらせたが、どうやら心の奥の理性は上手く騙せなかったようだ。
思い込みなんかじゃなくて、視覚がきちんと慧を捉え、間違いなく俺の愛しい恋人だと認識した途端、体の芯に熱く火が灯ってどうしようもなく燻って疼いてくる。欲しい、と。
こんな状況だというのに触ってほしくて、めちゃくちゃに俺を愛してほしかった。
だが、俺の気持ちとは裏腹に不機嫌な慧は、半ば引きちぎるようにして薄いシャツを脱がせてくる。手袋は既に奪われた。
「マジで嫌な匂いだ」
獣が唸るように低く呟くのが聞こえた。
そして、シャツの一番上のボタンが弾け飛んだ瞬間、慧が一度大きくその淡い茶色の瞳を見開いたかと思うと、スッと睨みを強めた。
それは怒りのような、恨みのような、嫉妬のような、それでいてひどく切なくて、信じていたものに裏切られたような悲しいものだった。暫くの間、シャワーの音だけが響いていた。
どうした、と聞くことすら怖い。
「…随分と可愛がられたじゃねぇか」
「え、んっ慧、ッ…!!」
緩んだネクタイを強く引っ張られる。
首輪のようになったネクタイに逆らう方法なんてなくて、思わず一歩踏み出せば顎を掴まれて固定された。氷よりも冷えた視線は俺の首筋に注がれていて、近くでじっと見ていた。
何を見ているか、なんてすぐに分かってしまって、最悪の事態に息が詰まった。
(鬱血痕…!!)
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。