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3.


ものすごく気不味い。

頭の中は真っ白で、言い訳や誤魔化しどころか慧の気を逸らせる話題すら見付からない。

会話もなく音もない静かな空間で、慧から放たれる威圧感から逃れるべく下っていく階数に目が行ってしまう。たった数秒で数字が変わるだろうに、今日はその時間がひどく長かった。

ドキドキ、と速まっていく鼓動の原因はときめきというよりも緊張で、その鼓動が手首から慧に伝わってしまわないか心配だ。

「…慧、あのな、」

唇がカラカラに乾く。

雰囲気を柔らかくしようとしたが、返ってきたのは射殺すように鋭い視線だけだ。

そんなに不機嫌で鋭い眼差しを見るのは初めてで、体が緊張で固まる。だが、口を開いたからにはこのまま閉じるわけにもいかなくて、とりあえず結果の報告をすることにした。

「加賀美が買収に同意した。だから、」

「お前さ、」

だが、途中で遮られてしまった。

「他に言わなきゃならねぇこと、あんだろ?」

確信めいた強い口調。

これ以上鋭くなることはないと思っていた目が、さらに温度を下げていく。怒りと、苛立ちと、嫉妬と、とにかく不機嫌な感情。

「え…?」

「惚けんなよ。加賀美と何をしていた?」

「…買収の話だってお前も知っているだろ」

「してたのは話だけじゃねぇよな?…そんなに加賀美の移り香を漂わせて」

ピリ、と空気が震える。

非難の眼差しが突き刺さる。ヒュ、と喉が鳴った。慧の言葉は俺の予想を遥かに超えていて、幸か不幸か、麻痺した頭が回り出す前にエレベーターは目的の階に付き、ドアが開いた。

慧も俺の言い訳を聞くつもりはないようで、ドアが開くと同時に俺を強く引っ張りだした。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。