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2.


「…かしこまりました」

気不味げな播磨の声。

本来なら任務対象に接する時は細心の注意を払い、不用意に印象を悪くすることは避けるべきだが、今の俺には慧を宥める余裕がない。

ギリ、と痛みを訴えた手首に少し顔を顰めれば慧は僅かに力を緩めたが、逃がすつもりはないと言うように拘束は硬いままだ。

(慧は、どこまで知っている?)

辻と立花に足止めを頼んだことか。

ハニートラップを使おうとしたことか。

それとも、誘うだけじゃなくて、本当に体を許そうとしたことも知っているんだろうか。

(…まずい)

足止めのことは知っていても、ハニートラップのことは知らないだろう。だが、苛立ちを隠しきれない淡い茶色の切れ長の瞳は、全てを見透かすように黙って俺を見据えていた。

慧は全てを知っている。

と錯覚しそうになってくる。

そうしている間に会話は再び途切れ、ドアをいくつかくぐっては二つ目のエレベーターの前にまで来た。これに乗って下ってしまえば、もうホテルの一般客室フロアになる。

つまり、慧と二人っきりになるということで、俺は上手く回らない頭で必死に誤魔化し方を考えていたが、慧の一言に凍りついた。

「ここまででいい。仕事があるだろうから、お前はもう戻って構わねぇよ」

「部屋までお送りいた、」

「いらねぇって言ってんだよ」

あまりの声の低さに播磨の肩が跳ねる。

俺は言い訳や誤魔化し方をまだ考え出せていなかったが、播磨は少し悩んだ後、足を止めてその場で洗練された礼をして見せた。ポーン、とタイミングよくエレベーターが到着する。

「ごゆっくりお休みくださいませ」

グイッ、と強引に中に引っ張り込まれる。頭を下げた播磨に見送られながら、エレベーターのドアはゆっくりと閉まっていった。

こうして、俺達はついに二人っきりになった。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。