ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ。
携帯のバイブ音がする。俺のじゃないから必然的に彼のものだ。ガラステーブルの上に置かれたそれが振動する音がよく響く。
だが、それに構う時間すら惜しいと言いたげに無視していれば、ついに鳴りやんだ。
「ふ、…ぁ、あ…っ!」
たっぷりと三本入れられた指が中をかき回す。バラバラと動かされて、時折しこりに掠って意図せずに嬌声が出る。気持ちいい。
脚を動かせば、太腿に硬いものが当たる。早くほしい、と彼の腰に脚を絡めつけて声なく強請れば、慧が仕方なさそうに微笑んだ。
(分かっている。…慧じゃない)
だが、せめてそう思いたいんだ。
目を閉じて、彼にキスを強請る。
程なくして与えられた激しいキスには、慧が持たない煙草の苦味があって舌が痺れる。貪るように互いに舌を絡めて、唾液を混じり合わせて、吐息までも食らってしまおうとする。
だが、後に残った苦味だけがいつまでも口の中に残って、長く尾を引いていた。
そして、鋭い紺碧の吹き抜ける空のような香り。これじゃない。俺が好きな香りは、大好きな彼の香りは、これじゃないんだ。
(もっと優しくて、もっと穏やかで…!)
紅茶と、シトラスと、ムスクの香り。
後孔に咥えていた指が、ずるり、と抜けて腰が震えた。その直後バックルを外す音が聞こえて、ベルトが床に落ちる音が続いた。
ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ。
まさに抱かれそうになったその時、再びバイブ音が響いた。無機質な音が響く。
ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ。
初めはまた無視しようとしたらしいが、あまりにも鳴りやまない。チッ、と短く憎々しげに加賀美は舌打ちをして、携帯を手に取った。その物音が聞こえて、俺はようやく瞼を開けた。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。