上質な革張りのソファーに座った加賀美の上に、膝を立てて向かい合って跨る。
加賀美の手は逃げないように俺の腰をガッシリと固定していて、鋭いブラウンの目が少しだけ低い位置から俺を見上げていた。
逃げるつもりはないと苦笑いをして、甘えるように加賀美の首筋に頭を埋める。
途端に香水の香りが強まった。
ベルガモットの弾けるような爽やかなシトラスの香り。だが、爽やかさを残したまま軽すぎず、大人の落ち着きを加えたウッディーノート。晴れた日のどこまでも澄みきった青空のような、気高さと力強さを兼ね備えた香りだった。
慧とは違う香り。慧の香りは優しいシトラスと優雅な紅茶と痺れるような上質なムスク。…もっと、もっと安心できる香りだ。
…あぁ、あの香りが恋しい。
だが、そう思う頭に反して、俺の体は加賀美を煽るように彼の耳朶に唇を這わせた。
「それじゃあ私から始めても?」
「いいぜ、」
切り替えろ。今は仕事だ。
(慧のことを考えるな。どうやって加賀美から情報を奪い取るかだけ考えろ)
一つ目の質問は何がいいだろうか。
正直に言えば単刀直入にあのマークのことを聞きたいが、それは不可能だ。後から遠回りに聞くとして、最初は無難なもの。情事前の遊びである雰囲気を出すことが優先だ。
「恋人はいますか?」
そう聞けば加賀美が瞠目する。
「なんでそれを聞くんだ?」
「それも質問だと捉えますよ?」
加賀美が苦笑いをして一旦俺の腰から手を離すと、自らのジャケットを脱ぎ捨てた。
「豪快な方ですね」
「これで答えてくれるだろ?」
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。