※慧side
で、車についた時だった。
「慧、久しぶりッス!」
襟足の長い金髪の男が話しかけてくる。この一流のホテルに相応しくない青のパーカーを着た男は、見慣れた俺の仲間だった。
「…立花、」
「偶然ッスね。これから飲みにいかない?」
「いや、そんな時間はねぇ。急いでるんだ」
また違和感を感じた。
こいつはTCCEを受けて合格した同期だ。一緒に戦った仲間だからこそ分かる。
違和感があるんだ。確かにこいつは情報屋で、一流ホテルに来る仕事もあるだろう。だが、若者っぽいパーカーとデニム、スニーカー姿でホテルの駐車場をうろつくとは思えない。
むしろ着替える暇もなくここに来たような。それほど急いで、急な用事があるような…。
「行かねぇよ。また今度な」
「あ、慧、ダメです。車がパンクしてしまって出せそうにもありません」
「俺の車に乗ってくッス。俺の家の近くに美味しいお店ができたんスよ!」
自分の車を見た。だが、異常はなくて、逆側に周りこめばタイヤがパンクしているのが分かった。思わず頬が引きつる。
高いベンツがパンクしたとか、タクシー呼ぶのにも待たなければならないとか、問題はそんなんじゃない。そうじゃなくて、もっと根本的なところに違和感を感じたんだ。
違和感が徐々に疑惑となっていく。
「…なぁ、辻、」
「ですので、タクシーで、」
「お前さ、なんでそっち側から見ただけでパンクしたって分かったんだよ?ずっと俺と一緒にいたなら分かるわけねぇよな?」
ギクッと二人の表情が強張る。
ついに、疑惑が確信となった。
「…お前ら、まさかとは思うが、皓に俺の足止めを頼まれたんじゃねぇだろうな…?」
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。