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10.


加賀美の視線が俺に向くのを感じる。

それに気付かないふりをしながら、クラブで培った色気を全力で出してみた。

服装はそう乱れていないから、あからさまには見えないだろう。…それにしても執事の格好でホストの色気を出すのは初めてだった。

「加賀美様?」

「…あ?」

加賀美の声が僅かに揺れる。

テーブルに肘をつき、そこに頭を乗せて眼鏡の上から彼を見れば僅かにたじろいだ。

「此度の買収、私は大変助かりました。だから加賀美様にお礼がしたいのですが、」

執事を演じる時より声を甘くする。

囁くように、耳元で息を吹きかけるように。小さな声だとしても、この空間には俺達しかいないのだから聞こえるはずだ。

角度から鎖骨がよく見えるように。だが、声も肌も偶然で体を与える気なんてないと見えるように。手に入りそうな、入らなそうな微妙な雰囲気で若干の挑発と揶揄を含ませた。

「私にできることはありますか?」

媚びるように体を差し出すんじゃない。

鷲のようなこの男の狩りの本能を刺激するように、あえてあからさまにはしない。

可愛がってと甘えるんじゃなくて、自ら獲物となって逃げながら猛獣を誘惑するような危うくて駆け引きに似た色仕掛けだった。

「慧様を困らせたくないので、できれば私個人ができるものがいいのですが…」

たとえば、体のような。

言葉には出していない。だが、その選択肢は加賀美の頭の中にも浮かんだだろう。

その証拠に、ゴクリ、と喉が鳴ったのだから。俺を見据える茶色の瞳に先程とは違った系統の鋭さを見付けて、口角を吊り上げた。

(あと一押しだな…)

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。