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9.


実は、切り札がもう一つある。

それを口にすることはないが、情報屋を抱えている加賀美ならとっくに知っているだろう。

警察だ。警察がここの違法カジノに目を付け、近々捜査の手が伸ばされる予定だ、とそれとなくホテル側に情報を流してある。

自分がオーナーならロクなことにならない。だったら、捜査が入る前に誰かにホテルごとカジノを押し付けて、自分はさっさと逃げた方が賢い。押さえられたら元も子もないんだから。

加賀美はきっとこう考える。

だから多少不利だとしても頷くはずだ。

「…あなたの勝ちだ」

白煙が空中に消えていく。

「その話、受けよう」

思わず口元が緩む。

それを必死に抑えて、ほっと安心したような表情で加賀美に微笑んで見せた。

「あぁ、ありがとうございます!」

さて、これで仕事は一段落。

買収の後の話はさすがに慧に出てきてもらう必要があるから、俺はこれまでだ。

ここからは俺のプライベート。この男がどうして伊瀬が使っていたマークを持っているのか、どうしても聞き出したかった。

安心した表情を少しだけ顰め、暖房の入ったクーラーに一瞬だけ視線をやる。思わずといった風にネクタイに手を伸ばしたが、ハッと手を戻して加賀美に恥ずかしそうにはにかんだ。

鋭い加賀美ならば、これだけで気付く。

「暑いですか?すぐに暖房を緩めるので、朝倉様もラクにして構わない」

「すみません。お言葉に甘えて」

鎖骨が見える程度にネクタイを緩めた。

ここであからさまに誘ってはいけない。あくまでも自然に、暑いと言い訳ができる範囲内で肌を見せ、雰囲気に持っていくんだ。

…まぁ、本来なら執事がネクタイを緩めることなんてあってはならないだろうが。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。