「私もめぼしいホテルを見付けるよう慧様から仰せつかりまして、…お恥ずかしいのですが、頂いた予算で買収できるような場所は…」
と、苦笑いを浮かべてみた。
ここで加賀美に与えた情報は二つ。
一つ、ホテル買収のため金が必要である。つまり、言い換えればホテルが手に入れば現金は必要ない。二つ、買収のための予算がある。
ただ息をするにしても隙を見せないこの男が、この条件で浮かべることは、
「失礼だが、ご予算は?」
「80億です」
嘘だ。1円だってありはしない。
だが、舌一枚であることにするのが俺の仕事だ。
「…あぁ、そうだ、加賀美様。すぐにお支払いできないなら、こうしてはいかがでしょう」
僅かに目を細めて加賀美を見る。
鷲のように鋭い目が見定めるようにじっと俺を見据えていて、背中に緊張が走った。
「カジノでの賞金は結構です。さらにこの80億も差し上げます。…ですので、加賀美様のこのホテルをいただけませんか?」
89億2,800万に80億を加える。169億2,800万。途方もない巨額だが、このランクのホテルを買収するにはまだ足りない。
加賀美が鋭く目を細めた。
互いに出方を伺うような沈黙。加賀美がどう出るのかは予想がつかないが、今、目を逸らすのはまずいことだけよく分かった。
沈黙が続く。壁にかけられた古いアンティーク調の時計の、チク、タク、という秒針の音だけが響いていた。こちらを探るような目。まるで高野から見下ろしてくる鷲の目のようだ。
そして、ついに、
「っふは!お上手だ!」
加賀美が沈黙を破った。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。