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The first bet.


むしゃくしゃしていたんだ。

その時ちょうど請け負っていた仕事はとある女社長から企業秘密を聞き出せというもので、ターゲットである三十路を過ぎて少し経つその女性はそれはそれは綺麗で、成熟した色香を漂わせた美人だった。

女性特有の柔らかさと、世間を渡ってきた芯の強さと、大人の落ち着きを持つ彼女は本当に魅力的だった。年は離れていたものの、仕事ではあったものの、情事はかなり楽しめるんだろう。

本当にタイプだったり、彼女に欲しいわけじゃない。ただ仕事で騙す相手にしてはそれなりに本気の褒め言葉を与えていた。それだけだ。

この手のタイプは年下に弱い。

まだ社会に出たばかりの雛鳥のふりをして、子供っぽさの抜け切れていない無邪気な態度で、それでいてたまに大人の色香で少し強引に迫れば呆気なくコロッと騙されてくれるはずだった。

なのに、どうやっても俺に靡かない。

甘えるように擦り寄っても、そっと指を絡めても、ソファーに強引に押し倒しても、顔を赤らめて恥ずかしがる素振りこそあったものの、子供の戯れを相手にするように終始本気にはならなかった。

どれだけベッドに誘っても操を立てたかのように頑固に拒絶してくる。それが旦那とかならまだしも、必死に聞き出せばその相手はホスト。

イラッと来た。

女を取られたわけじゃなくてもターゲットを取られたわけで、そいつのせいで俺に落ちなくて。

結局最後まで落とせなかった。客に要求された情報はハッキングして渡したが、無事に仕事を終えてもかなりすっきりしなかった。

これだけハニートラップをやっててターゲットを落とせなかったのは初めてで、しかも会社の方の仕事で忙殺されて、さらに真夏の暑さにやられて、俺は頭がおかしくなっていたんだろう。

悔しくて、悔しくて、女社長を言いくるめて紹介状を書かせて、相手のホストがいるというそこそこ高級なクラブに乗り込んだ。

────それが一年後に恋人となるあいつとの出会いだった。

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