12.
「お前から配れ」
「客が優先に決まってるだろ」
「レディファーストだ」
「…レディじゃないんだが、」
「……とりあえず、お前から配れ」
もう自分が何を言っているのか分からない。
訳が分からなくなって、頭が回らなくなる。握った手首が温かい、だなんてどうでもいい馬鹿なことを考えるくらいに混乱していた。
とにかく、俺の前に置かれたカードを有無を言わさずに相手側に押し付ければ、渋々といった様子ながらもカードを配り続ける。
(意味分かんねぇんだけどッ!)
勝って俺にワインを頼ませることが、こいつにとっての得なんじゃないのか。
あれだけシャッフルで苦労してストレートフラッシュを忍ばせた挙げ句、それを相手に渡してわざと賭けに負け、何を要求されるのかも分からない。一体何がしたいんだ。
頭が痛くなりそうで、運ばれてきたロゼを眺めても答えを見付けることはできなかった。
だが、一つだけ分かる。
こいつの目的は俺を勝たせることである。
だから、こいつの思い通りにならないためには、
(…俺が負けなきゃなんねぇってこと?)
だが、俺が勝つことによってこいつに何か利益が生まれるとしたら、それを避けるためには全力で弱いハンドを揃えるしかない。
全力で勝ちを掴むギャンブルが、全力で負けに行く意味不明なものに変わった瞬間だった。
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