4.
「お前に遊んでもらって、お前の車に乗って、俺が仕事してる間はお前の膝の上で寝て…、しかも、二階って二人っきりだろ?」
「一人と一匹な。…はぁ。猫に嫉妬するなよ」
「嫌だ。絶対に飼わねぇからな?」
本格的に言葉を失った。
じとりと慧を見ていると、不機嫌そうな色素の薄い目は瞬きの後すぐに悪戯っぽく細まって、唐突に俺の肩に腕を回すとグイッと抱き寄せた。
いきなりのことに対処できず慧の胸に飛び込んでしまって、耳のすぐ傍に唇を寄せられた。
ふっ、と吐息が吹きかけられる。擽ったくて身をよじると、吐息だけで笑った気配がした。
「…俺は今飼ってるネコちゃんに夢中だから、他のを相手する時間なんてねぇんだよ」
「ばっ、おまっ、」
慧の言うネコちゃんが誰を指しているかなんて、俺が分からないはずもない。
夢中と言われて一気に耳まで火が出るように熱くなった俺を見て、慧が楽しげに喉を鳴らして笑った。髪を撫でる手が気持ちよくて目を細めると、その手は調子に乗って本物の猫を相手にするかのように、優しく耳の裏を撫でてきた。
パチ、と叩き落としても余裕たっぷりの笑顔と共に擽る場所を喉に変えられただけだった。
叩き落として、また触られて。
その攻防に夢中になっていたから気付かなかったが、いつの間にか部屋の中が静まり返って、四対の目がこちらに向けられていた。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。