雷鳴を伴わない嵐が、激しく暴れる。
深秋の雨は強く肌を叩き、体温を奪っていく。土砂降りの雨で視界ははっきりしないが、刃のように鋭い風は牙を剥き出しにしていても俺とイチルに噛みつく意思は見せなかった。
四人を想定して作られた広いフィールド。なのに、ただ遠くの方で白いローブを深く被っている男が一人立っているだけだった。どうやら、体格は逞しい方ではないらしい。
『あれが白銀の魔術師?』
「あぁ、そうだ」
ひゅう、ひゅう、と風が唸る。
言葉を交わしたわけじゃない。顔を見たわけでもない。遠くから姿を見ただけなのに、今まで対峙してきた全ての相手を遥かに凌ぐ威圧感がひしひしと伝わってくる。
強い、と本能の警鐘が鳴り響く。だが、怖いという感情はこれっぽっちも浮かばなかった。
『俺、逃げる気なんてないから』
「何言ってる。お前じゃ相手になんねぇ」
『それはイチルもじゃないの?』
そう言えば何も返されなかった。そして、少しの沈黙の後、溜め息混じりに呆れた声色で返される。
「…好きにしろ」
『もちろん、好きにする』
とりあえず、冷たい雨がイチルの体を冷やしてしまわないように、動きを鈍くして相手の攻撃を受けてしまわないように、防水の魔法を張る。濡れた髪や服も乾かしておいた。
どうすれば使えるかは自然と分かっていて、突然消えた雨水にイチルが目を見開く。
だが、何か言われる前に開始の合図がした。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。