『主様、お気をつけください』
「ありがとう。でも、安心して。無茶はしないって約束するから。…あと、シルフ、この町を守ってあげて。今まで通りでいいから」
『お任せください』
だなんて、俺が言わなくてもきっと彼女は全力で町を愛し、守っていくんだろう。
夜が明けて、シルフと話をした。
それこそこの町を訪れた本来の目的だったが、一連の騒動を経て、彼女の心境は変わったらしい。実は、朝早くに神殿に新しい供物を捧げる人々を見た時に俺もそうかもと予想していた。
町人達が口々に言っていた。シルフ様が魔獣から助けてくださった、怪我した者を素早くマーメイド様の許に連れていってくださった、と。
なんだかんだ言って、町が大切なんだ。
俺が現れたことでシルフの心も落ち着き、去年の無礼な言葉に関しては水に流すと決めた。罰はもう充分だ、と。
そして、一年も沈黙を保っていた風が、ついに流れだしたのだ。
少しだけ冷たいよそ風が頬を撫で、草木が穏やかに揺れる。朝日に照らされた真白い風車が、再びゆっくりと回りはじめた。
風に愛された町、風の丘が命を取り戻した。
とても綺麗だったんだ。風に流される白い雲も、シルフの柔らかい微笑みも、揃って神殿に押しかけて必死で礼を言う町人達の泣きそうな笑顔も。全てが綺麗で、眩しくて輝いていた。
因みに、冬越しの食料もないように思われたが、シルフはとっくの昔に対策を練っていた。去年の供物を保存していたのだ。
中位や下位の聖獣ならともかく、高位の聖獣は食事を必要としない。全て魔力で賄えるからだ。だが、人間のように食べて味を楽しむことは可能だ。
とにかく、いろいろ言い訳しながらも、シルフはきちんと湿気を除いて保存された大量の穀物を見せてくれた。ダイエットしていただけ、だの言い訳が可愛いと思ったのは内緒だ。
それをこれから町の人達に分けるらしい。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。